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県が新酵母と米≪真の地酒≫誕生
毎日新聞02年4月28日 (中田順平)
県産の酵母と酒米、水を使って醸造した初めての地酒が来年4月から市販される。県工業技術センター(茨城町長岡)が、茨城県にはなかった高級酒用酵母「YS酵母」の開発に成功、県農業総合センター生物工学研究所(岩間町安居)が新たに作った酒米「ひたち錦」を使って、香りの高い地酒を完成させた。
開発の決め手となった「YS酵母」は、250種類の試作を経て出来上がった。「YS酵母」は、アルコール生成能力や香り、風味の高さが特徴。工業技術センターの吉浦貴紀主任は「250種すべてについて、それぞれ1〜2ヶ月かけて仕込みを繰り返してきた。温度管理に問題があればやり直しで、結局、開発に7年かかった」と苦労を語る。
一方、「ひたち錦」は粒が大きく、タンパク質が少ない為、吟醸酒など品質の高い酒造りに適した酒米。病気に強いため生産しやすく、しかも収量が多い。県内の蔵元で昨年、ひたち錦と従来の酵母で試験醸造したところ、現在、広く使われている酒米「山田錦」より、すっきりした味わいの酒が出来たという。
今回の試みは、「真の地酒を」という県酒造組合(田中栄二会長)の要望で始まった。今後、県内4農協が「ひたち錦」の栽培を請け負い、収穫された酒米を県酒造組合が買い上げて約40ヶ所の蔵元に送る。醸造はそれぞれの蔵元が行い、独自のブランドで販売する。吉浦主任は「さまざまな味わいの地酒が造れるよう、これからもYS酵母の改良を続けていきたい」と話している。
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甘口風潮に辛口一徹
2000年(平成12年)12月17日
茨城新聞(土浦支社 小松貞行)
甘味の勝る日本酒が持てはやされた時代があった。いわゆる級別廃止以前の時代で、当時は関西の大手醸造会社が席巻した。村井醸造は、そんな風潮の中でも頑固に「辛口」の味を追求し続けたという。裏つくばの豊穣(ほうじょう)の地にあって米と水にこだわり、初代が銘柄に託した「公明正大」の志を今に受け継ぐ。清澄な辛口の酒からは、山あいの隠れ里を探し当てたようなしみじみとした味わいが広がってくる。
「知る人ぞ知る」と称される酒蔵はいくつかあるが、左党の間では村井醸造もそんな存在だ。清酒の級別廃止以前は、甘口の酒が大量に流通していた。酒の肴といえば塩辛いものが大半を占め、甘口の酒でちょうどバランスがとれるといった食習慣の違いもあったろう。しかし、糖分を混ぜ込んだ当時の甘口は、米と水を最大限に生かした日本酒本来の味には程遠い。十二代目蔵元の村井重司社長は「流行には合わないかもしれないが、米と水にこだわる中で自然に辛口志向になった」と話す。甘口全盛の中にあって頑固なまでに辛口にこだわったのは、「甘辛」そのものよりも、米と水を生かすことに主眼を置いた結果に過ぎないというわけだ。筑波山ろくといえば、「北条米」に代表される米どころとして知られる。真壁町は裏筑波に位置するが、良い米がとれる条件は同じ。江戸時代前期に初代がこの地で創業したのも、良質な米と水があったからだ。
初代がこの地の米にどれだけひかれ、自慢だったかは銘柄が物語っている。村井醸造社長によると、もともとは『公明正宗』という銘柄を使用していたが、戦後から現在の『公明』とした。公明の命名にはいくつかの由来があり、一つはつつましく清廉潔白に生きたいという願いを込めた「公明正大」からの引用。そして、公明(コーメー)は『米(コメ)』に通じるとして名付けられたと伝えられているという。水は、筑波山系の伏流水でもある井戸水を使用。「山ろくが迫っているので深く掘る必要はない。浅い井戸でもろ過など余計なことをする必要もない」(村井社長)
ほどの良質の水に恵まれている。「地域の人に親しまれる地酒は、安くてよいのが当たり前」が村井社長の持論。普通酒と特定名称酒(高級酒)の割合がこれを裏付ける。普通酒八に対し特定名称酒は二と、圧倒的に普通酒の醸造が勝る。村井醸造の普通酒について、こんな逸話を披露してくれた。「町内の葬儀のお返しとしてうちの酒が配られた。他県の人がこれを飲んで、電話で注文してくれることも多い。」また「初めて口にした人が、この酒には吟醸酒が入っているんだろう」などなど。村井醸造がこの話を南部杜氏の遠山隆雄さんに伝えたところ、「普通に丁寧に造っているだけなのに。うれしい話ですね」という答えが返ってきたという。小さな蔵ながら、コンピューター制御の大型自動精米機、連続蒸米機を備える。吟醸酒に迫る普通酒造りは当然コストもかかる。丁寧な酒造りのためには、機械化と南部杜氏による手作りの部分とのバランスを図らなければならないからだ。
(省略)
山あいの里で醸された、今世紀最後の新酒との出会いが待ち遠しい。
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